貴婦人 ヒメアカタテハ

 

11月も深まった日、鴨川右岸でヒメアカタテハを撮影しました。

チョウマニアにとって、珍しいチョウを初めて捕らえた瞬間のことは、それが小中学生のときの出来事でも昨日のことのように覚えています。私も中学2年の時の「三貫清水の森」のクロシジミだけでなく、小学校2年千葉県富浦町へ海水浴に行った時のモンキアゲハ、小学校3年家のそばの林でのオオムラサキ、小学校4年群馬県荒船山のヤマキチョウ、中学2年群馬県嬬恋村のミヤマモンキチョウとミヤマシロチョウ・・・。あげればキリがありませんが、それぞれその瞬間を記憶しています。一方でモンシロチョウやキマダラヒカゲといったありふれたチョウの初採集は、全く忘れてしまっています。ところが、唯一どこでもいるチョウにもかかわらず初採集をはっきり記憶しているのが、このチョウ「ヒメアカタテハ」です。

あれは小学校3年の時。授業を終えて帰宅した後、学校へ遊びに行きました。何をしに学校へ行ったか覚えていませんが、多分野球かビー玉遊びだったと思われます。チョウマニアはそんな時でも補虫網を持っていくのですが、その帰り道、遠回りになりますが原っぱを経由するルートで帰宅しました。余談ですが、昔は広っぱとか原っぱという空き地があって、子供達の遊び場でした。その原っぱで、見慣れないオレンジ色のチョウが飛んでいる。それがこのチョウでした。

捕獲してみると、表はきれいなオレンジ色、裏はベージュに近い色でその色彩が大変気にいりました。チョウの仲間には風に運ばれて外国からくる「迷チョウ」というのがありますが、その瞬間は「これは迷チョウではないか」と思いました。ところが、家に帰って図鑑で調べるとヒメアカタテハという種類で、全国的に分布と書いてある。ちょっとがっかりしましたが、そのチョウの貴婦人のような(その時は貴婦人などという言葉は知らなかったけど、小学3年生ながら何故かそんな印象をもちました。ませてますね)美しさには満足しました。

近い種類にアカタテハという種類がありますが、対照的にこれは黒い地に濃い赤いラインのある男性的な姿。海軍中尉とあだ名をつけた昆虫好エッセイストがいますが、まさにその感じです。ちなみにこのアカタテハを初めて採集した時の記憶は全くなく、やはりこれはもう好みの問題のようです。クラシック音楽に例えればヒメアカタテハはモーツアルト、アカタテハがベートーベンというところでしょうか。私がベートーベンよりモーツアルトを好むようになったのは、もしかすると、このチョウに出会ったせいかもしれません。

2005/12/3 馬場一秋