「薄羽蜉蝣」か「薄馬鹿下郎」か

 

6月半ば、ウスバカゲロウを見かけました。ウスバカゲロウというと北杜夫さんの本を思い出します。私は氏の作品が好きで今でも時々読みますが、中学から高校にかけて「どくとるマンボウ昆虫記」を何度も読みました。昆虫好きなら一度ははまる本ですが、この中にこの昆虫のことがこう書いてありました。

「ウスバカゲロウが漢字で『薄羽蜉蝣』とは思わなかった。『薄馬鹿下郎』と思っていた。なぜならそいつは飛んで部屋に入ってくると、電気や障子にぶつかって墜落してばかりいたからだ」。さすがに北杜夫さん、絶妙の表現です。確かにこの昆虫、「お前それでもトンボの仲間か」と言いたなるほど、飛ぶのが下手です。フワフワと今にも墜落しそうに飛びます。

ところがこのウスバカゲロウ、幼虫時代はアリジゴクと呼ばれるスター(?)でした。「昔の名前で出ていたい」というのがウスバカゲロウの本音かもしれません。昆虫としての迫力も人気(?)に比例します。アリジゴクと名のった幼虫時代は、大きなハサミを使って巣に落ちたアリを捕まえ、地下に引き釣りこんで、体液を吸ってアリをミイラにしてしまう怪獣のような存在でした。それが、成虫になると飛ぶのもやっとというような迫力のないトンボになってしまうのです。これも自然界の面白さといってよいでしょう。

最後にもう一つ興味深い話ですが、アリジゴクは地下で2,3年過ごすのですが、面白いことに肛門がありません。成虫になってから2,3年分の糞を一挙に排出するそうです。この瞬間は、さぞかし気持ちが良いでしょうね。

2005/6/28 馬場一秋